読書|赤白つるばみ・裏(楠本まき) – 生きる歯ごたえ

読書|赤白つるばみ・裏(楠本まき)

『赤白つるばみ』について書いた記事はこちら

『赤白つるばみ』を読んでからすぐに『赤白つるばみ・裏』も読んだのですが、
記事を書きそびれていたので、今さらですが書いておきます。

ハフポストの記事
「ジェンダーバイアスのかかった漫画は滅びればいい」
漫画家 楠本まきはなぜ登場人物にこう語らせたのか

おそらく、この作品を知った方の多くが、2019年に「ジェンダーバイアス」のキーワードとともにSNSで拡散されたのを見かけたからではないかと思います。

本作品の連載期間中に投稿された著者ご本人のnoteでも、漫画家および編集者に対して、
「ジェンダーステレオタイプな表現はやめませんか?」と訴えかけられています。
エンパワメント。|楠本まき|note

お察しの通り、ジェンダーバイアスがテーマとなっている作品で、
『赤白つるばみ』より直接的な表現が多く見られます。
私は歯切れ良くて痛快だな!と思って読みましたが、SNS上では反感を持った人の意見も散見されましたね。
昔の楠本まき作品のファンで、現実離れした耽美な世界観を求めている人からすると、ちょっと違う…となるかもです。

単行本のタイトルが『赤白つるばみ・裏/火星は錆でできていて赤いのだ』となっている通り、2作品が収録されています。
この記事は、『赤白つるばみ・裏』(以下『裏』)について書いています。

『火星は錆でできていて赤いのだ』も3話・全36ページと短いながらも、
非常に示唆に富んだ(特に選択的夫婦別姓について)素敵な作品です。
『火星は錆でできていて赤いのだ』について書いた記事はこちら

『裏』だけ読んでも、話が分からなくはないですが、登場人物の背景や全体の世界観を理解するためには、『赤白つるばみ』上下巻も合わせて読むことをおすすめします!

こんな人におすすめ

  • ジェンダーバイアスって何?って思ってる人
  • フェミニズムに興味はあるけど、お堅い本じゃなく読みやすい本を探している人
    (フェミニズムの入門書のような内容ではないですが、日常に潜むジェンダーバイアスを重くならない語り口で描いてあるので、初心者でも読みやすいです)
  • ジェンダーバイアス強めの友達との関係に困っている人
  • 表現者として、ジェンダーバイアスにモヤっても、世間のニーズに合わせなきゃいけないかな?と悩んでる人
  • 少女漫画のテンプレっぽい表現に抵抗を感じる人

『赤白つるばみ』との共通点・相違点

共通点

登場人物はほぼ同じで、美大生たち、ヒルコ家族、二千花ちゃん、大蛇丸、キノさんが出てきます。
それぞれの日常を送りながら、課題や疑問に直面し、考え、話しをして、
何てことない日常が少しずつ変化していく様が丁寧に描かれている点が似ています。

相違点

美大生たちの話がメインとなっており、『赤白つるばみ』で椿にやや冷たく当たるも、最後にはちょっと仲良くなっている女の子、シマちゃんが主人公の物語(『裏』で初めて名前が明かされる)
シマちゃんは大学に通いながら漫画家として活動しており、これに関連して、出版社の編集者やアシスタントとしてつく先輩漫画家が新たに出てくるキャラクターです。
この先輩漫画家が、あの「ジェンダーバイアス」発言をしている谷崎先生です。

あと、電子版買われた方には伝わらない話で申し訳ないですが、
紙の本の違いは、中面の紙が『赤白つるばみ』はややクリーム色がかった白ですが、『裏』はクリーンな白です。より黒くてシャープな線が映える。
表紙もマットな質感の白い紙で『赤白つるばみ』の金と銀の高級感と比べるとライトな印象。(税抜800円と、『赤白つるばみ』の762円より高いですが。)

作品の中の時間軸

大蛇丸・由良ノ介のじいちゃんが亡くなってから、少し後の話になります。
美大生たちのボロいシェアハウスは取り壊しとなり、
なんと由良ノ介は二千花ちゃんと付き合って同棲しています!
ちなみに大蛇丸とヒルコは結婚することなく、どちらもシングルのまま。
シマちゃんと椿は『赤白つるばみ』では、まだ距離のある関係でしたが、
本作品では友人関係になっています。(椿に女友達ができた!)

主な登場人物

シマちゃん(ペンネーム・ノエル子)

椿や音羽たちと同じ美大に通う大学生。
ノエル子というペンネームで漫画家として活動しています。
耽美な世界観の谷崎先生作品が好きなこともあり、無意識のうちにルッキズム発言をしてしまうこともあり、音羽から突っ込まれることも。
おそらく作中で最もマジョリティの考え方に近いタイプ。

谷崎先生(谷崎真珠)

少女マンガ雑誌『ガーマレット』に連載している人気漫画家
手をケガしてしまい、出版社経由でシマちゃんにアシスタントを依頼します。

『ガーマレット』に連載されている他作品はジェンダーバイアスが強いと批判的に見ており、
ガーマレットの読者が求める作品について、シマちゃんに話す際に以下の発言をしています。

ガーマはジェンダーバイアスのかかった作品が結構多いので
そういうのは全滅するといいなって思います。
※ジェンダーバイアス:社会通念上の性別に基づく偏見、固定観念。

赤白つるばみ・裏/火星は錆でできていて赤いのだ P104

歯に絹着せぬ物言いをする人で、そう言えるのも実績があるからだよな、と思わせる部分があり、おそらく著者の楠本まき本人を投影したと思える人物。

椿 鳩子(フクちゃん)

シマちゃんの美大の友人。
音羽の発言いわく

かわいいけど おかしな言動でポイントずれた痛いキャラつくってるっていう評判……

赤白つるばみ・下 P12

というのも、下巻で数字や文字に色がついて見える共感覚もちであることが描かれます。
『裏』だけ読むと、かわいいからモテるが女友達の少ない不思議系女子、みたいに見えますが、ベースに共感覚があるんですよね。

友達はできにくいけど、男性からは告白されるのでとりあえず付き合ってしまうが、外見目当てで近寄ってくる男性との恋愛が長続きしない悩みを抱えています。

考え方はリベラルで、はっきりした性格ではありますが、人間関係はややこじらせています。

シマちゃんと椿の関係

少女マンガは少女のためのマンガなのに
どうして対等じゃない恋愛が定番なのかな?

赤白つるばみ・裏/火星は錆でできていて赤いのだ P57

少女マンガあるあるの表現について話している時に、シマちゃんが椿から投げかけられる疑問です。椿はあまりマンガを読まないと言っており、定番だから当たり前、のような視点では見ていません。
対して、シマちゃんは一瞬意表を突かれたような表情を見せます。

椿は元カレに子供扱いされた態度取られてムカついた、とも話していて、シマちゃんはそれには共感しているのですが、マンガの世界の定番の表現と現実でされてムカつくこと、がリンクしていなかったことに気付かされるワンシーンです。

この1件があった後に、シマちゃんは谷崎先生のアシスタントを依頼されるのですが、谷崎先生の「ジェンダーバイアス」の話が腑に落ちるのも、この伏線があるからなのでしょう。

大学生ぐらいの年代は、同じようなタイプで固まりがちですよね。
自分の思想(常識)と対立する考えの友人と付き合うのって、なかなか難しいものです。
ですが、作中に出てくる複数のこの2人の会話には『赤白つるばみ』から続く排他性の少なさが凝縮されていて必見です。こういう友達付き合いできたら良かったなぁ。
(私は椿の考え方に近いんですが、大学生の頃なんてシマちゃんタイプを平気でディスって人間関係壊していたので、本当に精神的に幼かったと反省しています。)

もちろん、現実世界はシマちゃんや椿のように排他性の少ない人ばかりではないですから、自分の考えを口に出して、関係性がギクシャクしてしまう場合もあると思います。

でも、意外と伝えてみると、相手は無意識で言っているだけだったり、すぐには理解してもらえなくても、後々気付いてくれる場合もあるので、「違うから関係を切る」だけじゃない選択肢も頭の片隅に入れておいていいかな、と思います。

世間のニーズに合わせるか?自分の描きたいことを描くか?

大枠で捉えると、シマちゃんの表現者としての成長を、
フェミニズム的な視点を交えて描いた作品と言えます。

物語の冒頭で、すでに漫画家として多忙を極める生活を送っている様子が描かれるため、
新人とはいえ作品の人気はそれなりに高いと推測できます。

とはいえ、漫画家として食っていく自信はまだなく、
編集者の石田から辛辣なダメ出しを食らうと凹んでしまうこともしばしば。
(この石田の存在が、いわゆる「世間の常識」でものを考える大人。
資本主義的な視点で、ユーザーの求める物を量産することを漫画家に求めるドライな性格。)

プライベートでは、リベラルな考え方の由良ノ介に片思いをしているものの、同じようにリベラルな考えの椿や音羽と会話をする時には自分の保守的さが目立ってしまって自分に自信が持てない。

そんなモヤモヤとした思いを抱えたシマちゃんが、椿との会話や、谷崎先生のアシスタントを経て、最後のシーンでこう宣言するのが印象的です。

私は自分の信じるものを描くよ!!
アクマに魂売ったからって 別にそれがウける保証すらもないのに だれが売るもんかー

赤白つるばみ・裏/火星は錆でできていて赤いのだ  P122

『裏』におけるキノさんの存在

惜しいことに、『裏』では出番が少ないのですが、
最後のシーンですごく重要な台詞とモノローグを言っています。

だけど 残しておかなきゃ
私がなんであったのか
それは きっと 今 生きている
誰かを 勇気づけるから。

赤白つるばみ・裏/火星は錆でできていて赤いのだ  P131

漫画と芸術でジャンルは違えど、そこで3人の表現者がつながる感じがあります。
谷崎先生も、シマちゃんも、これからマンガを描きたいモモも、自分らしい表現を突き詰め、世に出していける土壌を先人が脈々と作ってくれている。
だから、自分たちの代で止めてしまうのは非常にもったいない。

自分ひとりが発信しても、どうせ大衆には届かないから、あえて人と違った意見出すより、みんなに合わせておこう…。と消極的になる時もあると思いますが、ひとりの発信で、後に続く人の道筋を明るく照らすことができるかもしれませんよね?

まとめ

総クリエイター時代と呼ばれる時代に

シマちゃんはオフラインで活動している漫画家なので、ちょっと遠い存在に見えますが、
クリエイターという視点で考えると、インターネット上に何らかの作品を公開する(SNSでの発信含め)現代を生きるほぼ全ての人が直面する問題を扱っていると考えられます。

何も考えずに、娯楽として消費できる軽い作品を量産するだけのクリエイターになるのか?
それとも、大衆と違っていたとしても、自分の考えを発信していくクリエイターになるのか?
それを問われる作品です。

ブログも一種の表現、フラットな言葉を選びたい

私も細々とブログを書いているのですが、インターネットに公開した時点で表現者の1人になっている訳で、その責任について改めて考えるきっかけとなりました。

ブログの書き方について調べれば、稼ぐためには、世間のニーズに合わせて記事を書け、検索されやすいキーワードを使え、多少の倫理観にはフタをしろ、そんな主張も見かけますし、「稼ぐため」に限定すれば正論なのでしょう。

しかし、世間のニーズを反映させた表現ばかりが、世の中にあふれ返ってもつまんないじゃないですか。世間のニーズが変わらない限り、何も新しいものは生まれない。
それどころか、ジェンダーバイアスで誰かを不快な気分にさせて、傷つけることにもなりかねない。

検索ボリュームや共起語だけで、現在上位表示されている記事の表現を真似しないといけない義務はないですからね。
なるべくフラットな言葉で書けるように、日々精進していきたいです。

marizawa

人生に飽きっぽくて、生きる歯ごたえを探しながら生きてます。 少ない労働と少ない消費で生き延びつつ、FIRE目指して準備中。 副業歴はブログ3回ほど挫折、DIYのYouTubeチャンネル開設(更新少ないけど継続中)、今4度目のブログ。 投資歴はFX1年ほど(休止中)、積立NISAと積立仮想通貨1年目。 発達障害(ASD)傾向ありのうつ病 【Twitter】@85_tae 【YouTube】https://www.youtube.com/channel/UC27zMz4qKnEprx8ohPzVpGg?view_as=subscriber

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2件のフィードバック

  1. 2021年9月20日

    […] 上記「ジェンダーバイアス~」の台詞が出てくるのは、「赤白つるばみ・裏」という別の作品で、感想はこちらの記事に書いています。読書|赤白つるばみ・裏本作はフェミニズム漫画という訳ではありませんが、台詞にジェンダーに関するワードが散りばめられていたり、女性特有の「呪い」に関する描写があり、フェミニズムを意識した作品と言えます。大枠としては「普通」とは異なる存在を受け入れる多様性についての物語として私は読みました。 […]

  2. 2021年9月22日

    […] 『赤白つるばみ・裏』について書いた記事はこちら […]